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  • Aiko Ikeda

file.02 三田かおり Kaori Mita

最終更新: 2月15日

離島コスメで持続可能な社会へ

~原料開発チームのパワフルママ~



「次はなにする?」


全校生徒が10人にも満たない離島の小さな小学校で、子どもたちの明るい声が響きます。今日は、毎回楽しみにしているワークショップの日。以前みんなで拾ったヤブツバキの実からできた地元・高島産の椿油や唐津産のレモン、柑橘のゲンコウ、ホーリーバジルやローゼルといったハーブから採れたアロマオイルを使った美容液を授業でつくっています。


講師は、ジャパン・コスメティックセンター(以下JCC)の原料開発チームに所属する三田かおりさん。唐津の8つの島で採れる植物の生産及び加工品製造を支援する取り組み「オーガニックアイランドプロジェクト」の仕掛け人のひとりです。


明るくて可愛らしい印象の三田さんですが、とにかくパワフル。その行動力や周囲の巻き込み力で、JCCの枠にとらわれない仕事ぶりを発揮しています。


JCC Web-magazine file.02では、そんな三田さんの仕事やJCCに入ったきっかけ、地域貢献への想いなどについて語っていただきました。



お仕事はなんでも屋さん?

前回のfile.01では国際連携を担う松永さんの姿を通して、JCCの成り立ちや、その国際的な立ち位置などについてご紹介させていただきましたが、JCCの重要な使命のひとつに“地産素材を活用した化粧品や健康食品の原料及び製品の開発支援”があります。


三田さんの仕事はまさにこちら。地域の方や研究機関の協力のもと、その地域に自生している植物や、栽培が可能な植物を調べ、さらにそれらがコスメや健康食品の原料として適しているか、協力してくれる生産者さんがいるか、収穫量はどのくらいか、安定して原料を供給できるのかといった、さまざまなことを探っていきます。


唐津の離島・高島で採れたハーブ。紫の花がホーリーバジル、赤い実がローゼル

また、地産素材を活用した商品開発を通して地域のブランディングを行ったり、高齢化が進む地域での耕作放棄地や空き家、イノシシなどの害獣対策といった地域課題を知り、解決に取り組んだり、原料のプロモーションによる企業への売り込み、販路の開拓、収穫のお手伝い、前述のようなワークショップなどを通して子どもたちに地域のことを知ってもらう等々、とにかく三田さんの仕事は盛りだくさんです。


お話を聞きながら、思わず「それ全部三田さんの仕事なんですか!」と、驚くと、「なんでもやりますよ」と、笑いながら答えてくれました。



わけもわからず任命された「椿姫」

三田さんは、椿をはじめとする地産素材の産地形成及び原料化に取り組む専門人材として、2017年4月からJCCに加わりました。


「君を今日から椿姫に任命しよう」

JCC前事務局長の八島大三さんは、入職して間もない三田さんにこう告げたそうです。


−−いきなりですね。


三田:そうなんですよ。椿のことも、それが自生しているという島のことも知りませんし、最初は何をしたらいいのかまったくわかりませんでした。


−−椿が多く生えている場所が唐津にあるんですね。


三田:全国的にイカで有名な呼子から船で20分ほどの場所にある加唐島という島には、日本原産のヤブツバキが約4万5000本ほど自生しているんです。

もともと加唐島は『日本書紀』にも「椿の島」と書かれるほど、古くから椿の木の多い島で、その実から良質な椿油が採れることが地元で知られていました。ただ、人口120人ほどの漁業メインの島ですので、採れる椿油の量も少なく、あまり収穫量も安定していなかったんです。 


加唐島に自生するヤブツバキ(撮影:水田秀樹)

三田:加唐島では2009年に島づくり事業実行委員会が結成され、そのメンバーによって島つばき工房という加唐島の椿油の生産がスタートしていました。そうしたなか、椿姫(笑)に命じられた私がまずやったことは、島に通うことです。島民の方と仲良くなって、椿がどこに生えていて、椿の実を採る人は誰かとか、その人が毎年何キロくらい採ったとか、細かく聞き取りでデータをとっていったんです。そして、調べていくうちに、なんてトレーサビリティのしっかりしている組織なんだろうと思いました。


直訳すると「追跡能力」「追跡可能性」とも訳されるトレーサビリティ。その商品が消費者に届くまでの過程をしっかり遡ることができるかどうかが、現在重要視されてきています。島というある種閉鎖空間だからこそ、加唐島の椿油は図らずもトレーサビリティがしっかりしていることに三田さんは気づきます。


9月半ばから10月半ばに行われる椿の実の収穫の様子(撮影:水田秀樹)

三田:島にはいわゆる専業の椿農家さんはいないんですが、昔から副業として椿油の生産が行われきて、現在は島民の約3分の1にあたる、40人ほどの方が携わっています。いまでこそ顔の見える生産者や生産物がもてはやされていますが、化粧品って、そういう概念があまりなかったんです。離島なので肥料なんて与える必要がなくて、島の人たちの長年の手入れにより除草剤なども必要のない天然原料。収穫した実を非加熱(コールドプレス)で絞り、丁寧に漉すと不純物のない椿油ができあがります。こんなに良いものが埋もれている、そんな現状に気づきました。


ひとつひとつ丁寧に収穫された椿の実(撮影:水田秀樹)

美しく透き通った加唐島産の椿油(撮影:水田秀樹)

−−もったいないですね。


三田:そうなんです。そこで、他に椿がある日本の島ではどういうことが行われているか調べに行ったんです。特に加唐島と同じくらいの人数でやっている東京都の利島(としま)が印象的で、そこでやっていることを加唐島に置き換えたとき、自分は何ができるかを考えました。そうして出た答えは、シンプルに「加唐島の椿油の良さを発信したい」ということでした。

日本が原産となるヤブツバキは、学名を「カメリア・ジャポニカ」と言い、日本から中国やヨーロッパにも伝わった植物で、日本的な原料としても人気があります。こういう日本の歴史のある島にオーガニックの原料があって、すごく品質が良いものだということを、改めてPRしていきました。


−−加唐島の椿を使った商品にはどういったものがあるのでしょうか。


三田:地道な働きかけが実を結び、いまではシャンプーやトリートメントのRinren凛恋シリーズ(株式会社ビーバイ・イー)や、NATURAL COSMO(株式会社三上)のスタイリング剤、ヘアケア用品や石鹸などの芦屋ハーブバレーシリーズ(美容薬理株式会社/パルセイユ株式会社)など、これまで約40ほどの商品に加唐島はじめ唐津産の椿油が使用されています。いまは安定供給するために、8つの島にエリアを広げて椿の実を収穫しており、それらの実からは椿油が1tほど採れるようになりました。


コロナ禍真っ只中の2020年7月夏。日本有数のセレクトショップとして知られるユナイテッドアローズは、自社初めてとなるコスメブランド「JUICE(ジュース)」を発売しました。そこに使われているのが、無農薬、無化学肥料、無除草剤をうたう加唐島の椿油です。

加唐島の自然の壮大さと素晴らしさ、そして島にダイレクトに還元できるという仕組みが共感を呼び、採用が決まったとのこと。採用から商品の発売には3年ほどかかったそうですが、三田さんたちの唐津TSUBAKIのプロジェクトが大きく実を結んだ瞬間でした。



自分の“やりたいこと”を諦めない

三田さんは、現在中学3年生の娘さんとふたり暮らし。いわゆるシングルマザーです。

大学を卒業後、外資系化粧品会社の美容部員として福岡の百貨店に勤務していたときに出会った男性と結婚しますが離婚。娘さんを連れて実家のある佐賀市に戻りました。ただ、その際三田さんは安易に実家に頼るということはしなかったといいます。


三田:親はいい意味で頼らせてくれなかったですね。うまくいかなかったといってそのたびに実家に戻るというのはやめてくれと。自分でもそう思いましたから、自分のけじめは自分でつけるようにしました。出張のときなどに頼ることはありましたけれど、娘も空気を読んでくれたのか(笑)、熱を出したりするのは決まって週末で、学校は皆勤賞。一度も子どもの病気が理由で休んだことはないんですよ。


−−しっかりした娘さんですね。


三田:しっかりものです(笑)。母子家庭ということで、父親がいない負い目を感じさせたくなかったんですけれど、そこで「あなたのために我慢した」っていう子育てはしたくなかったんです。だから、自分のやりたいことを思いっきりやりたいと思って。そして、やってやれないことはないと証明したかったんです。


−−素敵ですね。JCCに入られたのが2017年ということでしたが、やはりコスメの世界に関わりたいということだったんでしょうか。


三田:転職前は佐賀県杵島郡の大町町商工会というところで、たろめん復興プロジェクトというものに携わらせていただいていました。かつての炭鉱の町・大町で食べられていた「たろめん」という麺料理があって、いったんなくなったそれを復活させて町の名物にしようということで。それがひと段落したときにJCCの方とお会いする機会があり、ちょうどいま人を募集しているから面接受けに来てって言っていただいたんです。

商工会のときに地域支援や地域振興といったマインドを学ばせていただいたので、自分のスタート地点であるコスメと地域に関わることがやりたくて、JCCの採用面接を受けることにしました。



地域課題解決のための新たなNPO法人を設立

加唐島での三田さんの椿姫活動は、現在では唐津の8つの島全体に広がりを見せています。


高島の生産者さん(左)と三田さん

たくさんの島の人たちと親しくなっていくうちに、三田さんは島のさまざまな地域課題の解決にさらに深く関わり、商品開発だけではなくもっと島の人たちに寄り添い、共に歩んでいきたいと思うようになりました。

高齢化が進む唐津の島では、人口減少や空き家問題、耕作放棄地、害獣被害(主にイノシシ)、漁業の衰退化など、多くの問題をかかえています。

2020年7月、唐津のなかでもより島に特化したさまざまな地域課題に柔軟に対応しつつ、経済活動を生み出して島を活性化させるため、三田さんは新しいNPO法人リトコスを立ち上げました。


「リトコス(Retocos)」には、自然素材にこだわった植物を離島でコスメへと再生するという意味が込められています。三田さんはJCCに所属しつつ、オーガニックの自然派化粧品やキヌアやモリンガといったスーパーフードの生産等を通じ、社会貢献を願う団体の代表としての活動をスタートさせました。


リトコス:https://retocos.com/


三田さんは言います。

「島には、そこでしかできない体験があります」

唐津城近くの渡船場から船で10分ほどの場所にある高島

唐津の8つの島のうち、加唐島と並んでいま三田さんが力を入れている島が高島です。島民は200人ほどで漁業を生業とする人が多いのですが、20年ほど前から“宝くじの当たる神社のある島”として、全国から人が訪れるようになりました。

とはいえ、年間数万人が訪れていても神社への参拝が目的のため、滞在時間は1時間ほど。そのため島民との交流なども生まれにくく、島全体での生活基盤の向上や移住者の増加、新たな産業振興等にはなかなかつながっていかない状況でした。


早急な対策が必要とされていたところ、唐津市が進めるコスメティック構想として三田さんが関わり、高島区長や島の人たちとともに耕作放棄地を整備を進めてきました。コスメ原料となるハーブや、昨今需要が高まっている栄養価のすぐれたスーパーフードの栽培、ニホンミツバチの養蜂などが高島で始まっています。


原料の生産だけでなく、交流人口を増やし、島の未来を守るために本当に必要なことはなにか。三田さんは、島の人たちとともに考え始めます。


2020年、三田さんは高島の耕作放棄地全てにオーガニック認証(JAS認証)を申請し認可されました。それまで行われていた芋類や玉ねぎといった農産物よりも付加価値が高く、高齢者でも栽培しやすいハーブ栽培に切り替えてもらうことで、島のハーブ栽培に物語性を持たせ、ブランド力の向上に努めています。“高島にしかないもの”を増やし、ローカルだからこその強みをPRしていっています。


モノに溢れた現代に求められているのは、“そこでしかできない体験”です。原料の収穫やワークショップ、島の特性を生かした新鮮な食材と自ら収穫したスーパーフードやハーブを美味しく味わい、現地に泊まるといった「コスメツーリズム」を打ち出しました。まだまだ準備段階ですが、島での滞在時間を延ばし、交流人口を増やす試みとして、みんなで試行錯誤の毎日です。


高島でのテストツアーの様子。ホーリーバジルの収穫体験

体験の後は、島の食材や栽培されたハーブ類をふんだんに使った手料理がふるまわれる

ゆくゆくは唐津の島々が、美と健康の島として知られるように。島の資源を生かし、島の人たちがやりがいを持って幸せに生き続けるために。オーガニックアイランドプロジェクトでは、そのためにさまざまな取組みが進んでいますが、その確かな手ごたえを、三田さんたちは少しずつ感じています。



日本の小さな島から世界へつながる窓を開ける

−−お話を伺うと、まさしくSDGs(持続可能な開発目標)の実現ですね。


三田:以前は、まだSDGsがそんなに注目されていなかったんですが、SDGsに注目しつつ椿油を中心に島の原料をPRしていったんです。JCCは世界中のコスメティッククラスターとつながっていますから、小規模でも世界の市場に打って出ることができます。それは、自分がいまやるべきことだと思ったんです。2020年のコスメティック360は初のオンライン開催でしたが、唐津の椿油を世界に向けてアピールすることができました。


−−三田さんの今後の夢はなんですか。


三田:地産素材のコスメ原料をPRするというのはもちろんなんですけれど、どちらかというと、佐賀県唐津市の島でこういうSDGsにつながるプロジェクトを先進的にやっていることをPRしたいと思っています。

それは自分の夢なんですけど、同じ想いを島の方々も持って、一緒の方向を見ていただけていることがありがたいです。


——そういえば、高島の方が「われらが三田ちゃん!」っておっしゃっていましたね。


三田:本当にありがたいです。また、いま私が関わっているのが、高齢者とか、障がい特性を持つ方々とか、特別支援学校の生徒さんといった、一般的には“支援される”側の人たちなんです。離婚した当初は私もそうでしたけれど、だからこそみんなで力を合わせて、なにか大きいことをしていきたいんですよね。スケールを小さくするんじゃなくて、私たちがやる普通のことが、最終的には世界につながっていくことで、世間の“常識”を変えていく。そうなっていくことを願っています。



三田さんが立ち上げたNPO法人リトコスのサイトには、「リトコスの使命は、島の豊かな地球環境保全と、島の生産者を支援すること。そして、離島で暮らす子どもたちの未来を応援すること」と書かれています。


地域の課題を解決しつつ、オーガニックコスメで世界とつながる。

記事の冒頭でご紹介した高島の小学校では、現在不登校になった生徒なども島外から受け入れています。授業の見学をさせていただいたときの子どもたちの生き生きのびのびとした笑顔に、三田さんが実現したい島の未来が見えていました。


TOP PHOTO:Koichiro Fujimoto

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