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  • Aiko Ikeda

file.03 堤 和夫 Kazuo Tsutsumi

更新日:2月15日

“もったいない”を減らし、多くの地産素材を広めたい

~未利用資源の開発が地域を照らす~

理路整然と、わかりやすくご自身の経歴やジャパン・コスメティックセンター(以下JCC)でのお話をしてくださったのは、堤和夫さん。file02でご紹介した三田かおりさんも所属するJCCの原料開発チームでチーフを務めています。


堤さんは、研究機関等に分析を依頼する前段階の化粧品や健康食品の原料サンプルの作成やJCC会員の方々などからの原料についての相談対応を主に担当。もともとが研究職の方ということで、少々気難しい方かと想像していましたが、とても穏やかできちっとした口調からは、ご自身の仕事への愛情と誇りが感じられました。


今回は、堤さんのお話を通して、JCCでの地域資源の利活用などについてご紹介してまいります。佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センター唐津キャンパス内にある原料開発チームの活動拠点、コスメ原料開発室にてお話をうかがいました。


JCCを支える“原料開発”の専門職


佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センター唐津キャンパス(唐津市松南町)

−−唐津に佐賀大学の施設があるんですね。


堤:あまり知られていませんが、農学部の附属施設でして、4年生と大学院生の一部の学生さんがこちらで研究に携わっています。

 私どもはその建物や実験ハウスの一画をお借りして、さまざまな地産素材を化粧品の原料として使用するための最初のテストをしています。実験ハウスにそういった素材の匂いのついた蒸留水やその素材が持っている精油分を取り出す装置があります。

 例えば高島で栽培したハーブの中に、化粧品原料になりえるものがあるかどうか、そういったものを最初に調べる場所がココなんですね。素材から原料を取り出す場所ですね。ここで取り出したものを、佐賀県の工業技術センターや佐賀大学、九州大学に調べてもらいます。


―原料の分析をする場所ではないんですね。


堤:こちらでは、調べてもらうためのサンプルを作っています。また、この場所では大量生産ができませんので、こちらで最初の見本をつくり、同じものをメーカーの工場で作ってもらったり、会員の方々などから持ち込まれた素材から化粧品原料として役立つ成分を抽出する方法などを調べたりしています。


JCCの原料開発チームは、地域の人と関わり地域資源の利活用とブランディングを行う三田さんのような地域振興系の仕事と、地産素材が実際にコスメや健康食品の原料となりえるか、それが量産化できるかといったことを調べていく研究系の仕事に大きく分かれています。最近では管理職の仕事が増え、JCC会員の方々といった社外の方とのやりとりが多くなったという堤さんですが、その専門知識を活かし、相談業務にあたっています。


同キャンパス内の蒸留装置が置かれている実験ハウス

世界でひとつしかないものを作る

堤さんは現在50歳。福岡市の出身で、中学を卒業後は久留米高等専門学校(高専)の工業化学科に進みました。大工だった祖父と父の背中を見て育ち、幼い頃からものづくりへの関心は人一倍だったといいます。


―大工になろうとは思われませんでしたか?


堤:思っていました。ですが、中学から高校に進む時に父に今後の建設業界はどうかと聞いてみたんですよ。そしたら「先がないからやめとけ」と言われまして。建築ではない他の分野と考えた時に、化学(ばけがく)が面白いかなぁと思いまして。


―化学が面白いと思ったことがないんですが(笑)


堤:化学って、0から1、1+1=2だけじゃなくて、3にも4にもなる世界なんですよね。そして、目に見えないぐらい小さいですけど、複雑な形をしていて、そういったものを自分でつくりだすというのが合成化学という分野なんですけれど、そういうところに魅力を感じました。世界に1つしかないものを自分でつくれるんです。


有機合成化学を高専で学んだ堤さんは、20歳の時、広島の製薬メーカーで構成物質開発の職につきます。その後福岡に移り、いくつかの会社で健康食品や化粧品の企画製造・開発などに携わりました。前職で関わりのあった唐津の株式会社ブルームを通してJCCを知り、2018年4月にJCCに加入します。


「まさか自分が佐賀県のそれも唐津で化粧品に関係する仕事につくとは思いもしませんでした」と堤さん。現在は、未利用資源の開発に力を入れています。

約3日間撹拌した液体の状態を確認する堤さん Photo: Koichiro Fujimoto

もったいないをなくす“未利用資源”の活かし方

―“未利用資源”とはどういったものでしょうか。


堤:たとえば、唐津の加部島という場所の大ヒット商品に甘夏を使ったゼリーがあるんですが、商品をつくる際、どうしてもたくさんの甘夏の皮が余るんですよね。三田さんが交渉してそちらを分けていただけることになり、甘夏の皮を蒸留し精油と芳香水をつくることができました。また、ある野菜なども食用以外の廃棄になってしまっている部分についてのご相談があり、調べてみたところ、食用の部分と同様の美容成分が廃棄されていた部分にも含まれていることがわかりました。現在そちらを使った商品開発が進行中です。

 こういった、これまでゴミとして捨てられてきたものに資源としての価値を見出し、再利用していくことができるものを“未利用資源”と言います。JCCにはさまざまな地産素材がコスメ原料として活用できないかといった相談が寄せられていますが、いわゆる“もったいない”部分を減らしていく試みです。

 同じ植物でも茎や葉、実でも含まれる成分は違いますし、逆に実と同じ成分が茎などに含まれていることがわかったり。また、同じ植物を栽培しても土が違えば成分の含有量が違ったりします。研究機関からの分析結果で、唐津産のものの数値が高いとうれしいですね。

 相談を受けるにつれていろんな知識が深まってきまして、今まで普通に見ていたものも、あれもしかしたら使えるかもしれないっていうふうになってきました。「もったいない」と思うものが増えましたね!(笑)


―そうすると研究機関との連携も必須ですね。佐賀大学との共同研究などもあるのでしょうか。


堤:はい。共同開発しているものもありますし、持ち込まれた素材の処理方法や効率のよいやり方などを先生に相談して、アドバイスをいただいたり。佐賀大学に限らずさまざまな専門の先生のタッグを組んでやらせていただいています。JCCにおける産学官連携の学部分の、まさに現場のところになりますね。


高島や玄海町で栽培が進められるホーリーバジル。1kgの乾燥物から約10ℓの芳香水と少量の精油が採れる

同施設内にある水蒸気蒸留装置

地域素材を広げたい

―堤さんのお仕事でのモチベーションはどこにありますか?


堤:やっぱり、加工してみてその評判がいいとうれしいですね。最初は半信半疑で、有効成分が本当に含まれているのか疑ってかかっていますから。実際に抽出してみると、想像以上に香りがよかったり、日々発見があります。そういうところがやりがいになっています。香りを取り出すとき、依頼者から以前つくられたサンプルと今回自分がつくったサンプルが「一緒ですね」っていわれるのも達成感がありますね。


―製品化するときには、どうやったら同じものをちゃんと作れるかということも考えてらっしゃるんですね。


堤:そこも考えて、最初から難しいやり方はしません。シンプルに行えて再現性がとれるような方法を考えています。それこそ大量生産を考えたとき、特殊な機械をあまり使いすぎると、すごいコストがかかってしまいますから。少しでも多くの地産素材を広げるためには、コストや再現性も重要です。



「地産素材を広げたい」と語る堤さん。仕事での大変なところをうかがうと、「ある程度の結果を出さなければいけないところと、お預かりしている素材にも限りがありますので、失敗できないところですかね」とおっしゃっていました。


堤さんからは、責任感の強さが言葉の端々からうかがえましたが、なんといっても分析結果についてや原料の抽出方法、蒸留方法などを話されるときの生き生きとした表情が印象的でした。

佐賀産の地産素材を使用したコスメが他と差別化するためには、なぜ、どういった点が優れているのかといったエビデンス(根拠)が欠かせません。堤さんたち原料開発チームが積み重ねたデータが下支えとなって、世界への扉を開いていくのでしょう。


TOP PHOTO:Koichiro Fujimoto

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