
――今回はお忙しいところ、お時間いただきありがとうございます。御社の敷地に近づくにつれ、麦を焙煎する香ばしい香りが漂ってきました。
昨年のDiet&Beauty Fair2023では、共同出展に参加していただきありがとうございました。
改めてとはなりますが、御社の概要を伺えますでしょうか。
三栄興産株式会社 代表取締役 緒方哲哉氏

弊社は1965年、創業者である祖父がこの唐津市相知町で立ち上げました。2代目の父は当時高校生で、私は当然この世におりませんでした(笑)
相知町はかつて石炭産業で栄えた町です。第2次世界大戦終結後、石炭需要の減少等に伴い相知炭鉱が閉山された後、その跡地に設立されたのが弊社です。
今でも敷地内には炭鉱跡の石碑が残っていますよ。

当時祖父は唐津市内の精麦企業に勤めておりましたが、そこから独立し、弊社を設立しました。
――今でいう立地創業ですね。緒方社長は3代目ということですが、事業承継にあたり、大変だったことはありましたか?
入社前は全く違う仕事をしていました。2001年に前職を退職、弊社へ入社し現在に至ります。代表取締役に就任したのは2014年のことです。
就任した直後は、大変なことは沢山ありました。
ですが唐津東商工会、唐津青年会議所などを通して、地元の経営者の先輩諸氏と交流するなかで、その生きざまと言いますか、経営の姿勢を見せてもらいましたね。
多くの困難を乗り越えてこられた先輩方の姿が励みとなり、ここまで頑張ってこれたと思います。
――佐賀県は日本有数の大麦の生産地と伺いました。特に二条大麦は全国1位の生産量らしいですね。

大麦には大別して二条大麦と六条大麦の2種類があります。日本の麦茶のシェアの2/3は大手飲料メーカーが占めているのですが、そこはカナダ産の六条大麦を使用しているんです。
なので統計上は六条大麦が高いシェアを占めています。
二条大麦と六条大麦どちらを使うのかというのは元来地域差によるもので、西日本では昔から二条大麦がよく栽培されていました。
弊社では、県内最大の生産地である佐賀平野で収穫された二条大麦を主に使用しており、
年間で約1,000トン、約50種類の麦茶・健康茶を製造しています。
――国内はもとより、海外の展示会にも精力的に出展されていますね。海外の展示会に出展したり、営業することにどんな苦労がありましたか。
海外で出展を始めたのは2012年ごろからです。
今年(2024年)の2月にはニューヨーク、3月にはハワイ、6月にはカリフォルニアの食品フェアに出展してきました。
来月(7月)以降はマカオ、香港、パリ、ロサンゼルス等で出展を予定しています。

海外特有の商習慣など、苦労することはたくさんありました。
しかし特に大変だったのは、取引相手に自社の「ビジョン」をきちんと伝えるということでしょうか。
日本のマーケットではあまり聞かれることはありませんが、海外の取引のなかでビジョンの説明を求められることが頻繁にあります。「理念は何なのか」とか、「目指す先は何なのか」ということですね。
社訓もあるのですが、なかなか一言で説明するのに苦労していました。
取扱品目についても、麦茶・健康茶が海外では知られていないため、「茶色いお茶、何でも作ります。」と説明しています。
弊社が持っている人材、ノウハウ、資産といった能力をフル活用して、どれだけのことができるのか試したいんです。
先述のスローガンはそういった思いを言語化したものですね。医薬品や違法なものでない限り、お客様の要望に対して「できません」をなるべく言わず、可能な限り応えたい。これなら海外の方にもわかってもらえるでしょう。
――御社の主力商品である麦茶ですが、海外でも知名度はあがっているのでしょうか。
昨今の日本食ブームもあり、日本の食文化の代表である寿司は「Sushi」、抹茶は「Matcha」として、すでに海外では十分な知名度がありますよね。
しかし麦茶はなかなか広まっていません。英語で「MUGI-CHA=Barley Tea」と言っても通じないんです。幸いなことにこれまですでに約20か国と取引をさせていただいていますが、それでも麦茶は世界的に知名度は低いです。
また近年、韓国のポリ茶がアジアを中心に広まりを見せています。ポリ茶は麦茶と同じ製法で作られるものですが、このままでは「Barley Tea=ポリ茶」になってしまう。
日本の麦茶を広めるためにも、海外進出の重要度はますます上がってきていますね。
――海外進出のみならず、近年ではHACCP(ハサップ)認証の取得など、衛生管理の国際標準化にも注力していらっしゃるとお見受けします。
業界のことで恐縮ですが、実は麦茶を製造販売するのに、食品衛生法に定める営業許可制度がないのです。以前国内で営業していた時に、営業許可を持ってないという理由で門前払いを食ったこともありましたね(笑)
HACCP認証を取得したのは、そういったことも理由のひとつです。

もちろん、HACCP認証を取得したのはそれだけが理由ではありません。
麦茶の製造において、焙煎は水分を飛ばし、香ばしい風味をつけるだけの加工工程ではありません。高温の熱風で加熱することによる滅菌も行っているんです。
かつては、焙煎の具合は職人の感覚で判断していました。当時の職人は焙煎した麦に触れることで、その含水量や香りを見極めていたんです。
文字通りの職人技ですが、この職人の感覚をより具体的に数値化できないかと思い、HACCP認証を取得しました。
――焙煎に滅菌効果があるとは知らなかったです。
展示会でも、こういったお茶の製造に関する食品業界の基準を理解していただくことはかなり難しいですからね。取引先やお客様に安心・安全な麦茶を届けるためにも、HACCP認証は必須だと考えました。
このような基準の周知に関しては、弊社のみならず業界全体で取り組むべきだと思っています。

――10年あまりで急激に海外との取引が拡大していますが、その成功の秘訣はなんでしょうか?
Diet&Beauty Fairだけではありませんが、展示会に関しては出展し続けることではないでしょうか?
弊社も多くの展示会に出展してきましたが、一度の出展で話が進んだり、契約まで漕ぎ着けたことは多くありません。
何度も出展することで、「ここの会社また出てるな」「話を聞いてみよう」と思ってもらえるのでしょうね。徐々に取引が始まったり、OEM製造を依頼されることが増えてきました。
出展を重ねることでその業界のこともわかってくるのもメリットだと思います。我々のような食品業界にいる者にとって、化粧品業界は完全に異業種です。
そういった業界に飛び込むことで、食品業界にはない新たなトレンドに触れることができました。

――最後に御社の今後のビジョンをお聞かせいただけますか?
まずは、JCCが案内してくれる展示会には可能な限り共同出展で出続けたいと思っています。国内外の展示会に出展することで、共同開発商品の展示、既存の商品のブラッシュアップ、販路拡大に取り組めるからです。
話は多少逸れますが、唐津には「唐津コスメパーク」という化粧品クラスターがありますよね。あちらでは化粧品の製造、分析検査、梱包、流通までをワンストップで行うことができます。
弊社は化粧品業界には参入したばかりですが、長年にわたって取引を行っている食品業界のノウハウがあります。コスメパークと同じくOEM製造、梱包、流通、販路まで、ワンストップで行うことができるんです。
また依頼された製品をただ作るだけでなく、販路や製法など、これまでの経験を活かした提案をさせていただくことも可能です。単にOEM製造を受託するというよりは、共同でプロジェクトを推進し、クライアント様と一緒に食品業界を開拓したいと思っているんです。
そして弊社の商品を飲んでもらった消費者の方には、より美しくなっていただくために、
身体も健康になって幸せになって欲しい。そう考えています。
冒頭述べたように、私は先輩方の姿をみて頑張ることができました。駅伝のように、今は私がそのバトンを受け取っているのでしょう。
先輩方に恥じないよう、「茶色いお茶、何でも作ります。」のスローガンのもと、世界に麦茶を広めるためにも、頑張っていきたいと思います。
そしていつかは、私もかつての先輩方に倣って、バトンを後進に渡すことが出来ればと考えています。
インタビュー企業:三栄興産株式会社
日本の心を育み豊かでいきいきとした生活を創造する三栄グループ
We have a dream…
"Our delicious MUGI-CHA makes many people happy all over the world some day!"
会社概要
■会社名:三栄興産株式会社
■代表者:代表取締役 緒方 哲哉
■所在地:佐賀県唐津市相知町相知2635番地1
■設立:1965年4月
■事業内容:健康茶・麦茶・健康食品の製造業
■問合せ先:info@skk-sanei.co.jp
Text:時津 道志
ジャパン・コスメティックセンター 情報発信担当コーディネーター
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